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「ミドル・パッセージ」

―生きる意味の再発見―

ミドル・パッセージ―生きる意味の再発見

分析心理ドットコム

サイトの名前は、ユングの思想や理論が、他の精神分析の理論と区別して、とくに「分析心理学(Analytical psychology)」といわれることにちなんでいます。

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※ このページの内容は、2005年のものです。

~ スイス・ユング研究所の場合 ~

ユング派分析家の資格は、臨床心理士とはまったく別のものです。1965年に日本人で初めて河合準雄(かわいはやお)氏がこの資格を取得して以来、現在まで(2008年)に資格を取った日本人は、30数名ほどになりますが、そのほとんどは、精神科医か臨床心理士の資格をすでに持っている人たちです。
資格取得には最低4年間かかります。以下に過程の大まかな流れを、わたし自身の体験と合わせてご紹介します。

1. 分析家候補生(Training Candidate)になる
分析家候補生になるための受験資格は、「年齢26歳以上で、大学院修士号以上の学歴と、社会経験、そして50時間の分析(を受けた)経験があること。」です。(実際には20代の人はほとんどおらず、30代なら若い方、40代以上が大部分で、70代の人も時々います。)そして試験で問われることは、学問的な知識の量ではなく、分析家としての適性や資質です。分析家に「向いている人」と「向いていない人」というのがあり、これは本人のやってみたいという意志とはまた別のもののようです。この判断にあたっては、ひとりの志願者に対し、3人の熟練分析家が、それぞれ1時間の個別面接を日を空けて2度行います。計、6時間の密度の濃い面接を受けることになります。3人が全員一致で「分析家の道に進ませてもよいだろう。」と承諾してはじめて、志願者は「分析家候補生」になることができます。

この試験は、人によっては、生涯にたった一度のチャンスです。ここで「どうやら向いていないようだ」と判断され、もう二度とチャンスを与えられない場合もあります。しかし、「時期尚早のようだから、もう少し、いろいろな社会経験を積んでから、それでもまだ興味があったらそのときまた考えてみたらどうか。」と言われる場合も多いようです。同僚の中には、そういう経緯で「10年前はだめだったけれど、10年後に再びチャレンジして受け入れられた。」という人もいます。

2. 分析家候補生(Training Candidate)の生活
トレーニングの中核は、「自分が分析を受けること」です。頭脳明晰であることや知識が豊富なことは、分析家のトレーニングの中では重きを置かれていません。最低限の知識は、あって当然のものだと見なされますが、そんなものは、誰でも少し勉強すれば身に付くものなのです。それよりももっと重要なことは、自分自身が分析を受けて、自分を知ることなのです。これは、どんなに頑張ったからといって、一朝一夕でできることではありません。したがって、せっせと分析に通うことが、生活の中心になります。分析は自分と分析家の一対一のワークなので、スケジュールは各自異なり、研究所が学期中か休み中かも関係なく、各自、自分のペースで進められていきます。

一方、学期中のプログラムには、講義やセミナーがありますが、これらは出席を義務づけられているものではありません。あくまでも自分の興味や関心、そして学習スタイルに合わせて、出席したい人だけ出席すればいいというしくみになっています。人によっては、講義に出ないで、自分でウチで本を読んだ方が勉強になるという人もいます。

トレーニングとして受ける分析は、「教育分析」と呼ばれます。しかし、わたしが「教育分析」を受けに分析家を訪れたとき、分析家に「わたしたちがこれからやることは、“教育”分析ではない。」とはっきり言われました。少なくとも最初の段階では、わたしたちがトレーニングのために受ける分析と、一般のクライエントさんが受ける分析の間にはなんの違いもないのだということを、分析家は強調したかったようです。「教育分析」という言葉が分析の中で使われるようになったのは、わたしがトレーニングを始めて2年以上も経ったあとだったと思います。

3. 資格候補生(Diploma Candidate)になる
資格候補生になるためには、以下の項目をすべて満たさなければいけません。
* 分析家候補生として、最低2年間在籍する。
* 教育分析を最低150時間受ける。
* 最低ひとつの論文を書く。
* 8科目の試験に合格する。
(ユング心理学一般・夢分析理論・発達心理学・神経症理論・精神病理学・宗教学・民俗学・おとぎ話:それぞれふたりの試験官との口頭試問)
* 背景が精神科医や心理士などでなかった場合は、臨床現場で規定の期間の実習をする。
* 再度、熟練分析家の資質チェック(今度は3人×各1時間)を受けて昇格を認められる。

試験は大変でした。「最低限の知識を確かめられるだけ」とはいえ、この試験のために渡された「必読・参考文献リスト」ときたら、膨大なのです。日本語で読んでも大変な量を英語で読まなければいけず、気が遠くなるような思いでしたが、どの科目も興味がもてるものだったので、やりがいはありました。この点、大学入試のように、好きでもない科目をつめこんだり、ただ暗記するというのとはかなり様子が違います。そして、「口頭試問」というのも、日本人には慣れない形態で緊張するのですが、ただ一問一答式に機械的に受け答えをするというより、ディスカッションする感じなので、ひとつひとつが思い出に残っています。

4. 資格候補生(Diploma Candidate)の生活
「分析を受けること」がトレーニングの中心であること、講義やセミナーへの参加は本人の自由に任されていること、には変わりがありません。ただ、この時期には、自分が分析を受けるだけでなく、一般のクライエントさんに対して「分析を行うこと」もトレーニングの一部になってきます。これは、コントロールケース(Controlled Case Work)と呼ばれ、スーパーバイザーの指導の下で行われます。

5. 資格取得
以下の項目を満たすことが資格取得の条件です。
* 資格候補生として、最低2年間在籍する。
* 教育分析を最低300時間受ける。(分析家候補生のときに受けたものも合わせた時間数。)
* 最低300時間のコントロールケースを行う。
* 最低80時間のスーパービジョンを受ける。
* 最低60回の症例検討会に出席する。
* 熟練分析家の資質チェックを受ける。
* 6科目の学科試験に合格する。
* 卒業論文を書いてアクセプトされる。
資格取得までに、最短で4年かかりますが、実際には4年で卒業する人はあまりいません。というのも、一般の教育機関とはかなり違い、ここでは「より早く」卒業することには、ほとんど意味がないからです。 もちろん、それぞれ、経済的・社会的・家庭的な事情や制限があり、そんなにゆっくりはしていられないという現実があるのも事実ですが、それでも、わたしたちには自分自身の心の声に耳を傾けながら、自分のペースやプロセスに合わせてトレーニングを進めていくことがなによりも大切だという認識があります。そして、それはわたしには、ユング派分析家として巣立っていくのに欠かせない認識だと思えます。